起承転結
転の章 はまなす
一夜にして気温が10度以上下がった。16度を指す温度計が北の外れであることを思い知らせる。
最北の駅、稚内。意外に鉄道では一回来たきりだ。
近年放送された片道切符の番組ではここからスタートしていた。切符の性格上それが最長なのかも知れないが、北に導かれて旅をする俺ならば最後に到達する地に選びたい。
間宮林蔵はここを最北の地とどうして知ったのか・・・て以前も言ったか、これ。
歌だけではない。地図にも導かれてここへ来ているのだ。
先端が近づいてきた。
そして、最北。
昔はもっと近くまで寄れたのではなかったか・・・うろ覚え
日本最北端の文字が刻まれる。「今の」最北端はまぎれもなくここである。
戦前は、そうではなかった。樺太にも領地があった。
今でもその名残を見ることは出来るという。
樺太は肉眼でも見える。あいにくの天気だが、300mmレンズ一杯にその姿をとらえることが出来る距離にある。
すべて昔のことだ。今となっては望むべくもないことだ。
今を生きる俺たちににとっての最北はここ、宗谷岬であって。
サハリンへ行くことは、出来ないわけではなさそうだが、今の時点では興味はない。俺の北上はここまでだ。
一応証明書は買っていく。何枚目だったか?
たどり着いたら、帰るのみ。
南下を始めよう。まだ先は長い。
低い雲がたれ込めている。荒れた大地にセローがぽつんと一台。
デジタルならではの技でこんな絵になるが、青空など見えない。
昨日まで荷物でしかなかったジャケット。今日はそれを着込んでもまだ寒い。
遮るもののない自然の脅威。太陽ひとつでこれほどに違う。
かつて網の目のようにあった鉄道の多くがこの界隈に集中していた。それがなぜなのかは知らない。
衰退していく鉄道の中で切り捨てられるのが早かったのもこの地域。
南稚内から天北線、浜頓別から興浜北線。開通できなかった区間を過ぎて興浜南線。そして雄武から名寄本線。
それぞれ国鉄末期だかJR初期に一気に切られた。今その姿を残しているのはどれだけあるだろう?そうした線区に沿っているはずなのに、見つけたのは名寄本線の跡だけだった。
国鉄末期は学生だった。それも卒業間際。JR創世と社会人初日が同じ。就職難になりかけていた時代、末期の国鉄に乗りに行く時間はなかった。
同じようにバイクで訪れる日程も取れなかったその時代。北海道は長い時間を掛けて行くもの、という認識があったし、実際にそうするしかなかったのだと思う。
今こうして、わずか数日の日程でバイクを使って北海道の地を走っている。時代が変わったということか、それとも人・・・要は俺・・・が変わったということか。
オホーツクという地名はもちろん義務教育の社会科で習う。
だが、オホーツクに思いを馳せることになったのは、やはり・・・
千春の歌に「はまなす」というのがある。もう20年以上前の作品だ。
♪赤く燃え咲くはまなすを のぞんで遙かオホーツク 長き旅路の最果てに 風は冷たく吹き荒れる♪
はまなすの赤い花が見たい。そんな思いからすでに20年も経ったということだ。
はまなすという花が青森の県花であるということを知ったのはここ数年のことで、あくまでオホーツクの花だと思っていたし、赤い花だという意識しかなかった。どんな花かも調べてみなかった。
今、昔年の想いが実を結び、はまなすの花を撮っている。白い花があるということもわかった。だけども俺にとってはまなすは赤いものであることに代わりはない。STFレンズを持ってこなかったことが後悔される。VarioSonnarの得意とする色から少し外れる様な気がするから。
北海道での給油はホクレンに限る。
特に夏のシーズン、フラッグ目的もあってその頻度は特に高くなる。
ホクレンの旗は、基本的に道北、道東、道南の3つ。それに今年は、スペシャルフラッグがあるという情報をつかんでいた。
それは、選ばれた4カ所の給油所だけにある、黒い旗。
今回のルートの中で、道南の旗は望むことが出来ない。時間的に、方向的に行くことが出来ないからだ。道北はすでに確保、道東は出発地の帯広にあることがわかっているからなんとでもなろう。
そのなかで、黒。これを配布するスタンドが紋別にあることをつきとめた。
ただし、それがセルフ給油であるということだが。
実はこれまで、セルフ給油の経験がなかった。面倒だからということで、セルフを避けて通っていた。しかし今回ばかりはそうはいかない。セルフだろうと何だろうと、黒旗を確保せずに何の北海道か。
そして無事、黒旗を手中に収めた。
その後、セルフ給油は今のところ利用していない・・・
このまま佐呂間を経由するのか。
だけど温泉が恋しくなってきた。海沿いに行っても温泉はない。山へ入らなければ。
時間には余裕があった。別に遅くなっても良い。大雪の麓に湧く温泉を目指していこう。できれば秘湯が良い。そのためのオフロードバイクなのだから。
・・・降り出した雨で挫折しました・・・
有名な観光地の温泉でお茶を濁すことに。
熊の次は鹿なのか。ここもまた2桁国道。
ていうか、マジか!間近!真ジカ!
じっとこちらを見る目。悠々と構える風格。かなりの大物だ。
合羽を捲ってウエストバッグからα7Digitalを取り出す。
バイクを入れるために、国道の通行車両が切れるのを待つ。ゆっくりと車線の中央まで行ってフレーミング。
「お〜い!」
と呼んで見ればまたこちらを振り返る。一枚、また一枚。
勇姿を写真に納めて、荷物を片付けてバイクにまたがる。
「じゃあ!」
と手を挙げてもまだヤツはそこから動こうとしない。
そう、よそ者は俺たちなんだから。
峠を下って早めの給油。道東の緑旗もゲット。昨年のリベンジは十二分に果たした。
北見の町は、ある目的で泊まったことがある。そしてまたその時の居酒屋へ。
若い店主が切り盛りするが、これまた若い奥さんのやる気は以前より出てきたかな?
結の章 足寄より