File64 TM28/TM33

 排気ガス規制が厳しくなり、インジェクション仕様のエンジンが増えてきました。今後キャブが生き残っていくのは難しいのでしょうか。
 中でも、強制開閉式のキャブレターは旗色が悪い。エンジンが要求するより先に開けているわけで、開け始めに濃い混合気が流れていく可能性が高いから。
 規制がゆるかった90年代、クラス最強パワーを追求したスズキDR250Rには、標準で強制開閉キャブが採用されていました。おまけに加速ポンプも付いており、競技用モデルなみのキャブレターです。

 2000年頃、排気ガス規制により負圧式のキャブレターに変更されて今のジェベル250XCまで続いていますが、それも今年限りと言われています。
 負圧式のキャブになった2000年以降、カタログ上の出力が1馬力低下し、体感上はそれ以上に差があると言われています。そのためよりよい条件を求めて旧型の強制開閉キャブを求める人は少なからずいます。

 90年台のDR250R/ジェベル250XCに付いていた強制開閉キャブは、ミクニのTM28SSです。これは口径28mmのものですが、ミクニのTMシリーズにはほかにも31mm口径、33mm口径のものが存在します。
 SJ44モデルのDRには輸出用にレーサーモデルがあり、DR250レーサーにはTM31SSが、DR350レーサーにはTM33SSが使われていました。DR350レーサーは国内にも多数入っており、TM33SSキャブは今でも入手が可能です。

 SJ45モデルのDR250RにTM33SSキャブを付けることも可能です。
 もともと強制開閉のTM28が付いていたモデルは、TM33への交換は容易。負圧のBST32が付いたモデルの場合は強制開閉時代のパーツを組み込むことで対応します。

 いかに簡単に付くとは言っても、350cc用で口径が5mmも大きくなるのですからそのままでは十分な性能を発揮できません。250ccに合わせてセッティングをすることで性能を出すようにしていきます。



 キャブを弄るのに使う道具類。
 車種によってドライバー/レンチの種類とサイズは異なります。

 DR250R系の場合は+ドライバーはNo1が良いでしょう。サイドカバー等を外すのに使うほか、ホースバンドにも使います。
 −ドライバーは4mm程度、六角レンチは2.5mmと3mmが必要です。ニードルのクリップのためにラジオペンチも。通常はそれだけですが、シートやタンクを外す場合には10mmのBOXレンチが必要。



 メインジェットは必要に応じて。
 DR250RのTM28キャブはノーマルで#115です。

 ジェットニードルの調整のために、M3用の平座金を1〜2枚用意しておくと調整幅が広がります。



 基本的に右サイドからの作業になります。右サイドカバーを外すと、エアクリーナーダクトが見えますので、それをまずは外します。
 2カ所のネジを十分にゆるめます。抜き取ってしまうと後が大変なので抜けない程度にしますが、ゆるめ足りないとダクトが外せないので出来るだけ多くゆるめておきます。



 このダクト、手前にぐるっと回すようにすると、キャブ側がはずれます。
 そのままダクトの湾曲にあわせて曲げると、クリーナ側もはずれます。フレームのすきまから抜き取ります。クリーナ側には金網が入っていますので注意しましょう。



 キャブのエンジン側もねじをゆるめます。これはひねれば簡単にはずれますが、マフラーに引っかかって抜きにくい。とくにドレンホースがやっかいです。マフラーがノーマルの場合、ヒートガードが一番の障害物。

 さらに、アクセルワイヤーがタンクに干渉してうまく抜けてきません。強制開閉であるため、2本のワイヤーがあるのでさらに面倒です。カムカバーの方向にずらして触れるところまで引っ張り出します。



 メインジェット交換やパイロット調整ならこのままで可能ですが、ニードルを弄る場合は車体から完全に分離する必要があります。
 スロットルリンクの付け根に1個の皿ボルトで付いているワイヤーガイドを外し、ワイヤーをリンクから外します。



 TM28とTM33は、リンクの角度と寸法が違っています。TM33の方が大きくなっており、そのまま使うとアクセルグリップの回転角は増えてしまいます。



 この大きなリンクは、DOHC方式をとるDR250Rのカムカバーにわずかに干渉します。このままではアクセル開閉に支障が出て危険ですので、スロットルリンク一式をTM28のものと交換するのがベターです。
 ただ、TM28のスロットルリンクは、単品で注文が出来ません。キャブAssyとしてでしか買うことが出来ません。そのために、負圧式の車両にTM33を取り付けたい場合はTM28も同時に用意する必要があるというのがネックです。



 TM28はVベンチュリーと呼ばれる楕円型の吸気口を採用しており、スロットル開度が少ないときには幅も狭くて口径が小さいキャブのような効果を持たせています。これがTM28のレスポンスに大きく貢献しています。
 口径が小さいと言うことは、エンジンが必要としている空気容量に対して流速が大きくなります。流速が大きいとガソリンも多く噴出するので、それだけレスポンスがよくなるわけですね。

 TM33は、通常の丸い吸気口です。このキャブの最大内径は35mmまでと言われています。
 TM33とTM28は、実は同じボディです。外径はまったく同じなので、TM28をボアアップすればTM31にもTM33にも、あるいは最大寸法にもなるのですが、形状が美味く作れるかというのがポイントになるでしょうから素人には難しいでしょう。



 フロート室を開けます。ここの取り付けネジはM4サイズ4本ですが、+ネジが標準のようです。弄るには不便なので、ここはキャップボルトに代えてしまいます。ただしより強く締めることが出来るので、ボディのネジをなめない様に注意が必要です。
 フロートカバーを開けると、このキャブの特徴である加速ポンプが飛び出てきます。中に小さいバネが入っているのでなくさないように。



 フロート側にはメインジェットとパイロットジェットがあります。
 TM28標準はMJが#115、PJが#47.5で全年式で同じです。パイロットジェットを外すにはメインジェットを外す必要があります。

 このキャブのネックがこの位置についているパイロットスクリューということになるでしょうか。車体に取り付けた状態ではうまく回せない下側にあります。オートリメッサの競技用パーツでこれを指で回せるようにしたものがある様です。



 ニードルは、ちょっとやっかいです。上部のカバーを開けると、スロットルリンクにバルブ開閉リンクがねじ締めされていますのでそれを外します。
 バルブAssyを外すにはスロットルリンクは抜かなければなりません。



 はずれたバルブAssy。ニードルはさらにリンクを外す必要があります。ここは2.5mmの六角レンチの出番。奥まったところに2個対角で付いています。このボルトを外してリンクを抜き取ると、ニードルは抜くことが出来ます。



 ニードルはノーマルでは6FN84が使われています。
 クリップ位置を調整して濃さを変えますが、1段付け替えると変化が多すぎる場合には前述したM3の平座金を使います。ほぼ半段分の厚みがあるので、微妙な調整が可能になります。



 ニードルジェットはメインジェットで締め付けられています。
 標準のニードルジェットは年式で異なります。97年以前はP6、98年式はP8です。始動性に問題があると言われるDR250R、その対策としてニードルジェットを濃くしたものが98年式です。



 ほかにも98年式は少し変わっています。
 バックファイヤー防止のため、エンジン側にネットが入っています。効果のほどはよくわかりません。

 このため、98年式のTM28キャブは品番が違います。
  95〜97 : 13200−13E00
  98    : 13200−13E01
となっています。最近では末番が02のものがあるという情報も有りますが、仕様がわかりません。

 このネットがあるためか、エンジン側の取り付けパイプも品番が違います。
  95〜97 : 13101−13E00
  98    : 13101−13E01

 TM28をBST32車に付けるには、他にもクリーナ側のチューブ等が必要になると思われます。
 このあたりの部品は、SBSなどのスズキ販売店へ行けばパーツリストがありますので、年式で見比べて異なる部品を発注するのが無難ではないかと思います。

 ちなみにTM33の部品番号は
  13101−14D00
となります。取り付けパイプはTM28採用車ならば13E00でも13E01でも問題無いようです。



 さて、組み込みます。
 最大のポイントは、スロットルリンクの取り付けです。加速ポンプのレバーがややこしい位置にあり、ここをうまく組まないとリンクが付きません。無理に入れると加速ポンプレバーが折れます。
 手でレバーを回しながら間を縫ってはめこみます。


 さて、ここからはDR250RにTM33SS仕様でのセッティング履歴です。
 あくまで参考としての値で、走る環境や車体によって違うことが考えられます。


初期設定

 アイドリング域では、TM28における標準の値と同等と見て行きます。まずはPJをTM28用の#47.5としてみます。NJはTM33に付いていたものと98仕様のTM28のものが同じP8だったので、それを採用。ニードルはTM28の6FN84を選択、クリップは中間の3段目で行ってみます。MJは口径の差から大きくする必要があるでしょうから、TM33に付いていた#150をとりあえず付けてみました。
 この段階ではノーマルマフラーです。チェーンによる減速比は13:46と、標準の14:42に比べて2割近く低速(高回転)です。
 エンジンはすんなりかかり、アイドリングもします。アクセルにも反応しますので走ってみます。しかし走り出してアクセルを半開程度まで行くと、いきなりの失速。これは濃すぎでしょうか。MJの#150は行き過ぎか。


MJを下げる

 ジェット類を揃えないとセッティングも出来ません。PJ、NJはとりあえず行けそうな感じですからMJを用意します。
 TM28が#115ですから、#120〜#130まで2.5飛び、それと#135、#140を揃えます。勘で#130を選択、取り付けてみると結構良い感じです。走らせてみると、8500rpmを超えたあたりで2段ロケット的な加速になりますが、5000〜7000rpmあたりに大きな谷があります。常用する回転域なのでこのあたりを合わせる必要ありか。そこでMJをさらに下げ、#125とします。燃費は18km〜22km。かなり悪い。


サイレンサーの変更



 出口容量が足りないのでは?ということでサイレンサーを社外品に変更します。選択したのはOZワークス、音の一番小さい仕様のものを採用。
 低域での力が出ましたが、上の方はあまり変わりません。中間域ではアクセルのパーシャル時に音がうるさいです。これは、薄いかという気がしてきます。


ニードルクリップ段変更

 中域の谷をニードルでトライしてみます。最初に上から2段目にして見たらエンジンがかかりません。薄くしてはダメなことがわかります。4段目にしてみたら若干谷間が改善できたような気がします。
 この状態で山へ行きました。標高が上がるにつれて、回転が上がらなくなってきました。ん?濃いのか?


さらに排気系変更



 音がばらつく感じでうるさいのはふん詰まり的な感触があったので、ヘッドパイプも交換してみました。DELTAの薄肉のもの。曲がりも若干ゆるく短い。
 これに加えて、ニードルを一番下に。前回濃すぎる感じがしたのにさらに濃くするか?ヘッドパイプ入れた効果が出ると考えたわけで。結果、排気音が少し静かになり、レスポンスも安定してきました。それでは、とMJを#127.5に上げてみると、お、これはなかなか・・・
 ところが、標高が上がるとまたダメです。林道の途中で#125に戻したりなかなか安定しません。燃費は25km程度まで行くようになりましたから、多少は良くなっているようです。


試しにTM28SS

 長距離の予定があったので、試しにTM28にしてみます。ギヤ比も14:43としますが排気系はそのまま。
 なにせ排気音が静かです。ただ、パワー感はあきらかに無い。燃費も25km程度、TM33と大差ない。最高速が遅いのは力がない証拠です。


加速ポンプ外し

 加速ポンプがない方が安定するという情報を得たのでやってみる。レバーを外します。加速ポンプが無い場合、中域も高域も濃くする方向ということで、ニードル5FP96に交換。短いのでクリップは上から2段目、6FN84の一番下より2段分ぐらい濃い。MJ#130に上げます。
 これが大当たり。アクセルの全域できっちりとレスポンスし、谷間もなくなりました。ギヤ比を14:46としてノーマルより1割低速ですが、最高速がかなり上がりました。しかも燃費が30kmを超えるようになりましたから、相当合ってきたと言うことでしょう。


加速ポンプ復活

 季節が変わったらアフターファイヤーが激しくなり、燃費が落ちました。
 ニードルを弄ってみましたが、ワッシャ1枚入れ替えても愚図るほどシビアになってしまっています。気温が上がったので空気が薄いか。
 そこで、PSを薄めにして、加速ポンプを復活させた。加速ポンプがあると、あきらかに出足が鋭い。ただ上の方は少し重い感じがしています。


クリーナボックスの加工



 空気容量を増やしてやろうかと、オートリメッサの推奨するクリーナボックス加工を行いました。
 今のところ良い感じですね。燃費は28kmまで復活。加速ポンプありの状態です。

 現在のところ、3速あたりでの最高回転数は11500rpmぐらい。6速での最高回転数は9800rpmあたり。最高速は・・・レッドカード域を楽に超えています。ローギヤード化したうえでの数字です。燃費も含め、この程度の数値なら実用域でしょうか。
 ちなみに、ノーマルの95年式は、伸ばした速度でレッドカードぎりぎりぐらい、燃費は30〜38kmでした。98年式はほとんどノーマルで乗っていないので比較は出来ません。

 今後もさらに調整は続けて行きましょう。

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