春の水音

 雪の降らなかった冬。それなのになぜか春になるのが遅れ、3月になっても冬のまま。
 そんな冬も4月の声を聞いたとたんに暖かくなり、突然のように春が来た。

 冬の間、乗ることもなく放置されていたバイク。
 バッテリーを新しくし、かぶったプラグをガスレンジで焼いてセルを回せば、思い出したように始動した。

 冬眠からさめた瞬間である。

 さっそく春の野山を散歩とまいろうか。



 かつて走り回った山奥の村、上空をバイパスが通過することになった。
 このことでここが便利になるわけではない。道はずっと通り過ぎてしまい、この地に接続されることはない。この上空の道が日照権を云々ということも無い様な場所にある。

 子供の頃走り回った裏の道へ入ってみよう。



 その道はダートになっている。わずかな距離でオフロードバイクを引っ張り出すまでもない。山国ではこれが当たり前の道なんだ。
 何年ぶりかでダートを走らせるストリートマジック。経る年月が足腰を弱めて昔のような無理は出来ないが、この程度の道を散歩気分で走るのにはちょうど良い。



 道はやがて川沿いに出る。

 春になって気温が上がり、水の音が心地よくなってきた。
 雪の降らないこの地では、春になって急に水が増えるなどのことはない。天気が良ければ常に穏やかにさわやかに流れ続ける。



 やがてダムに出る。水道でも電気でもない、治水のためのダムである。であるから、ダム湖は存在しない。あろうことか、雨が多く降ると水門を開けて水が溜まらないようにする。



 ダムを超えてさらに奥へ。人里離れて行き交う人もほとんど無くなり、苔生した道を行けるところまで行ってみる。



 やがてダートになった道も行き止まりになった。
 小さな川が流れていた。



 川原に降りて見る。静かな森、聞こえるのは水の音ばかり。
 まだ水遊びには早い季節。それで水音が季節を春へと導いてくれる。

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