大雪原の風
冬のツーリングは暖かいところと相場は決まっているものだ。
走れる地域そのものが少ない。今年がいかに暖冬と言っても、北の方はバイクに乗ることすら出来ない。もちろん林道なんて入ることは不可能だ。
そんな北の山を走る方法がある。それはスノーモービルを使うことだ。
北海道にはいくつかのスノーモービルツアーがあるが、その中で今回参加したのは、南富良野の1日ツーリングコース。
2人以上での予約が必要で、今回は一人での参加だったので、他のグループの予約が入っている日に予定を合わせてメンバーに混ぜて貰うことになった。
スノーモービルはガイド会社からのレンタル。ここでは250ccと340ccが借りられる。料金は340ccが高いが、パワーがあるに越したことはない。
富良野市内の事務所でスタッフと落ち合い、ツアーコースまで車で移動する。数十キロ離れた南富良野の山中が今回のツアーコースだ。
スタッフが車両の準備を進めていく。中には調子が良くない車両もあり、その場でプラグ交換などで対処。
ヤマハの2サイクルモデルで、80年代の車両ばかりだが、環境問題で最近4サイクル化されている中としては古い2サイクルの走りを好む向きも多い。ピックアップの鋭い2サイクルエンジンはこういう車両に向いているし、軽いということもオフロード=原野ではアドバンテージになる。
富良野のホテルからやってきた参加者と合流する。家族連れが一組、個人参加者が他に1人。そして自分を入れて総勢8人。
この日は340ccが3台、250ccが5台。乗る車両が決まり、動かし方の指導。家族連れは昨年も参加しているそうで、経験はある。もう一人の個人参加者は初体験らしい。
私は340cc、250ccともに経験があるが、どれも1時間ほどの周回コースでの乗車だ。無いよりはマシといったところか。
インストラクターを先頭に、隊列を組んで進む。午前中は340cc車が後となる。私は最後尾を走ることになった。
スノーモービルの乗り方は、もちろん座って走ればいい。
車両構造はハンドルがスキー、駆動がキャタピラ。そのため、曲がる際はフロントに荷重をかけることになる。またカーブの内側に荷重をかけるのはバイクを倒し込むのと同じ。リーンインで内足加重とするのが良い。
また、スタンディングでの乗車も可能で、ハンドルに覆い被さってフロントが暴れるのを抑えるのはオフロードバイクと同じだ。その際、両足でステップに乗らず、片足をシート上に立て膝ついた姿勢が安定している。コーナー手前で足を入れ替えたりする必要も時にはあるが、このスタイルを使いこなせればスノーモービルはうまく走ってくれる。
さらに、リヤを流してカウンターで走る場合はシッティングで走った方が良いのもオフロードと同様にとらえれば良いだろう。。
基本的にスタンディングで走ることにした。オフ車乗りとしてはこの方が遙かに乗りやすい。
乗車経験自体は少なくても、普段オフロードバイクに乗っている我々にとっては普通に走る程度なら難しいことは何もない。
雪原から林道へ入る。これだけ一面の雪となってはバイクも車も歯が立たなくなる。林道はスノーモービルの独擅場となる。
午前中のツアーは主に慣熟を目的としたものだ。家族と同行したためにペースもなかなか上がらなかったが、雪原のツアーであるということが不満をかき消してくれる。
午後になると晴れてきた。絶好のツーリング日和と言えようか。
午後は排気量の大きいグループが先行する。午前中おとなしくしていたためか、経験者の人たちが先行するから着いてくれば大丈夫、と言ってくれるが・・・
ほどなく、レベルの差が露呈。仮にもオフロードバイク乗りの私である。
1回目の隊列整え時点で先頭交代の申し出を受け、イントラ直後の走行に変わる。
そこからはインストラクターと2台、かなりのペースで飛ばすことになる。
毎日走っているイントラにとって、家族のペースでは当然物足りないわけでもある。それなりのペースで走れる参加者の存在は恰好のターゲットとなったか。
後方のことはほとんど考えていない。見えなくなったら休憩して待つ。追いついたらまた全開。
キャンバーに突っ込んでいくイントラが煽る。行け!と。
行けと言われれば行かねばなるまい。普段、バイクではまずやることはない。しかしここは雪の上、転倒したところでたかが知れている。
思い切りよく乗り上げた斜面から一気に方向を変えて・・・
うまく行った。前で様子をうかがっていたイントラがサムアップ。
オフロードバイクではうまく出来ないことが、スノーモービルでは出来てしまう。ジャンプ、ドリフト、ウォッシュボード・・・
少々派手に飛びすぎて深みにはまりましたけどね・・・
こうなるとバイクとは違い、重さが脱出の抵抗となる。2人で引き出した頃には後続もそろった(笑)
これが、スノーモービルに一人で乗ってはいけない理由になる。一人ではこんな時にどうにもならなくなる。
その後、コースミスや填る参加者が続出した。
はたと気づいた。そうか、後尾の人たちは休憩時間が短いんだ・・・
バイクでのツーリングでも同じで、速いグループは要所で待つ。後続が着くとすぐに出発する。速く走れる人はそれだけ疲れないし、休憩も長く取っているのだ。いっぱいいっぱいで走る後尾グループは、走りでも疲れる上に休むことも出来ていない。
「迂闊だったね。調子に乗りすぎた・・・」
イントラが長時間の休憩を決めた。
雪の中なので距離感がないが、すでに2時間近く走っている。速度は平均で30km以上(340ccの最高速は3桁近い。250cc組を待つために休憩が多い)ので50km以上は山の中へ入っているわけだ。すでに外界とは遠く離れた場所にいる。
晴れ渡った雪原に、風の音だけが聞こえる。
走るだけがツーリングではない。こうして自然に身を任せるのがオフロードツーリングの目的でもある。
元気な人たちは雪の中を走り回っていた。それも楽しい。
さて、そろそろ行こうか。
雪原を再び走り出す。
今回は家族連れ中心だったためにフラットなルートを主に走ったが、走れるグループならば山に登ったりとかいろいろとルートは取れる様だ。特に道があるわけでも無いのだし。
ついに、大雪山の麓までやってきた。
人が入れるのはここまでだという。ここから先は大雪の樹海。人が入ることは無い。
そして今回のツーリングの最終目的地がこことなった。
冬の陽はもうすぐ落ちる。日が暮れてしまう前に帰ろうか。
最後に家族を送り出し、車の氷を溶かしながらスタッフと会話。
つぎはぜひ走れるグループで来て、と。走れる人はもっと楽しいところまで連れて行くから、と・・・
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