Ｆｉｌｅ５４ 足の専門医
前号の「二輪車強化工房」でフロントサスペンションの倒立化を施工しました。
その後の走行にて、少し問題点が発生しています。
それは、フラットダートにおいて唐突に前から流れるというもの。ギャップ通過などは具合良く、また舗装路もよく踏ん張ってくれるのですが、肝心のフラットダートがダメではイマイチバイクの性能を発揮できません。
レーサーのサスペンションですからダメなのでしょうか。セッティングを弄って何とかしたいと思いますが、ノウハウがありません。
そこで、プロの手にゆだねることにしました。
サスペンションオーバーホール、セッティングを掲げるショップはいくつかありますが、その中で選んだのは静岡県浜松市にある「プロジェクトサイエンス」です。
この世界ではトップクラスの能力と噂されています。さっそくツーリング帰りに浜松まで遠征し、そのまま預けてきました。
預けた時点でのサスペンションの状態をおさらいすると、
＊フロントにＲＭ１２５用の倒立サスペンション装着。突き出しを３０ｍｍ弱にセット。
＊リヤを締め上げ、サグを６５ｍｍにセット。
＊走行距離は１４０００ｋｍ、それまでオーバーホールしていない。
依頼した内容としては、
＊フロントサスペンションを柔らかくして突き上げを減らす。
＊小回りを確保するために上げたリヤもダンピングしなくなっているので、バランスを取るセッティング。
これらの条件から、施工内容を検討してもらいました。
＊フロントサスペンションは手で押すとさほど固くないのに走ると固い。つっぱり感が強い。剛性を落とし、全長短縮を行う。
＊リヤサスは抜けている様である。オーバーホールを行った方が良い。その上でサグは適正量にする。
納期は２〜３週間となります。
まず、フロントサスの現状値確認。使われているスプリングを測定し、ばね定数を計算します。０．３９程度と出ました。
これに対し、新たに選んだスプリングは定数０．４１のもの。数値的には硬さを増したものとなりました。
これはしかし、単品のばね定数が全てを決めるわけではありません。ばね定数とは、１ｍｍたわむのに必要な力。ｋ＝０．３９とは１００ｍｍで３９ｋｇということになります。この３９ｋｇをｋ＝０．４１のばねで出すには、約９５ｍｍたわませることになります。
つまり、ばねのセット長さを変えることで反力は変えられます。１Ｇでの負荷重量が同じならば、柔らかいばねの方が多くたわんでいることになりますね。前記の３９ｋｇを例に取ると、５ｍｍよぶんに柔らかいバネはたわんでいます。
よくわからなくなっていますが、柔らかいはずのばねに１Ｇを与えたときの沈みが少ないということは、それだけすでに縮めた状態でばねをセットしていることになるのでしょう。例としてセット時＋１００ｍｍストローク時の荷重数値を同じにしようとすると、ｋ＝０．３９とｋ＝０．４１ではストローク前の値が２ｋｇ違います。すなわち、ストロークする前の値を低く設定できるのは固いばねということになります。
これとともに、インナーチューブを切断加工して全長を縮めています。ただ長さを縮めただけではなく、スライドメタル部分のかみ合わせを短くして若干ひねり余裕を与えたということです。剛性を落とした、と説明していただいたのですが、機械屋的にはちょっと意味合いが違うとは思います。
さらに、スライドブッシュ自体が特別な形状のモノになっており、これは我々も機械製作時によく使う手法なのでわかりやすく納得の方法でした。ノウハウですので詳細は省きます。
さて、受け取っての帰り道。先日不具合を感じた道をもういちど走って帰ります。
フラットダートでの流れは収まっていました。さらにタイトターン、急な進路変更などへの適応性がとても高くなっています。リヤの暴れもなくなり、路面の変化に吸い付くようにタイヤが動いている様で結果的に駆動ロスも減っているようにさえ感じます。
反面、舗装路面ではやや切れ込みが強くオーバーステア傾向になっています。比較的アンダーの強いスズキ車のイメージとは異なるものに仕上がっています。
これらの改造にかかった費用はどれくらいか。
仕様、程度によって価格は変動しますので参考までにとどめていただくとして、１５万円強となりました。
決して安くはありません。この費用をかける意味があるかと問われれば、価値観の問題としか答えられないですね。サスペンションの性能が良いバイクを手に入れた方が良いよ、と、人には勧めると思います。
それでも、その車両にこだわりがあるのであれば、ＯＨＬＩＮＳやＷＰなどと言った著名なパーツを入れるよりは安く上がりますし、きちんとセッティングされたものになるのでこれも正解の一つでしょう。
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