第46話 ヤツの住む山へ再び
思えば長いこと山へ通っている。
滑り始めたのはもう20年も前のことで、バイク歴と変わらない。何がよくてここまできてしまったか・・・バイクに乗るのと同じで、風を切る音と躍動感。そして移動を続けることに旅を感じる。
だから、スキー場は次から次へと渡り歩けるところを好む。今は楽に行けるようになったこともあって志賀高原を多く利用している。
志賀高原は下界から遮断された雪の世界である。ひとつのゲレンデが奥深いわけではないが、いくつも渡り歩くと1日で十数キロの距離を移動することがざらにある。それらすべてがリフトと滑走で可能なわけだから、まさにツーリング感覚である。
整備のいい焼額はオンロード、奥まった横手山は林道・・・さしずめコブの丸池はアタック道か。
そんなところだから、という訳ではないが、ヤツはここに住んで数年になる。
きっかけは、俺だ。
とあるホテルを愛用していた・・・のだが、実は昼飯食いにいったことしかない・・・ので、そこの話題を出したらその後そこへ居着いてしまったという・・・
もう少し若い頃だったら、俺もそうなっていたかも?いや、なかなかありきたりの生活しかできないので難しいだろうか。行動できるというのはうらやましくもあり。
俺がそこを利用するのはいつも突然のことで、予定も何もない。去年は行かなかったが、今年もwebサイトを見る限りやつはそこに居るようだ。
いつものおすすめシチューセットを食べに行く。
そろそろ出るか、と準備を始めたところ、ヤツが現れた・・・
「こんにちは」
声をかけて一瞬止まる。
状況を把握するのに時間がかかるのは突然だからであり、この状況を少し予定していた俺は確信犯である・・・ここにヤツが居ることを知って来ているのだから。
何年か前にもこうして来ているから・・・何年何月号だったか忘れたが・・・
おさらいしておくと、ヤツとはバイクの世界での知り合いである。
今回、ヤツは早めに来たのでバイクでここまで来たという。さすがにこの雪ではバイクで走ることはできないが。なにせ今年は雪がいつになく多いのだ。
最近はこんなものに乗っている、と見せられたのは2輪駆動の自転車!これで雪の上も走るのだとか。
せっかくだから滑ろうぜ、とゲレンデへ。
前回はまだ2人とも長い板だった。カービングの板は導入したが、それ以後スキー雑誌すら見ていないので最近の滑りのトレンドを知らない。毎日滑っているヤツの滑りはまさに今のもので・・・
俺は今日が最後になるかも知れない、とも思っている。
もう滑らないというわけではないが、こうしてガンガン滑りにくることはもうないかも知れないということ。
年々、滑りが戻るのに時間がかかるようになってきた。昨年も最後まで少し違和感があったのだが、今年はついに戻らないままに終わった。回数が減り、年をとり、道具の質が変わって滑りが変わる・・・来年は今日の滑りが基準になるので、もう戻ることはないのだろう。
ヤツとの短い時間は早々に過ぎた。分かれて山を下りる俺、山に残るヤツ。
俺は来年も来るのか?
ていうか、君は来年も居るのかね???
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