第二十三回 SUZUKI SKYWAVE400TypeS

 中型免許(今は普通二輪と言いますか)を取得してから16年。とうとう大型二輪を取ることになりました。出来るだけお金は使いたくないんですが、今さら試験場一発は無理だろうと判断、超久々に自動車学校に通うことになったわけです。
 大型の教習車はHONDA CB750なんですが、何やら最近制度が少し変わったらしく…
 第一段階の4時間目の中で、ビッグスクーターに乗ることが義務づけられたようです。四輪で言うところのAT教習ですか。今年、6月1日から二輪にもAT限定免許が登場しているので、おそらくそれに伴って変更されたのでしょう。ただし四輪のAT教習のように時間全てではなく、1時限の中のほんの一部のみです。ほとんど形だけですね。
 昔はキワモノでしかなかったビッグスクーター、今はすっかり市民権を得た感がありますね。普通二輪や大型二輪を取って、いきなりスクーターに乗るというパターンもあるようなので、少しは慣れておかないと、ということらしいです。
 正直な話、自分的にはまったく興味ありませんが、話のタネ(っつーか記事のネタですか)には良いでしょう。
 配備されているのは、SUZUKIのSKYWAVEです。大型二輪の教習なので、てっきり現在最大排気量の650ccに乗るものと思ってましたが、これは400ccのようですね。この自動車学校には4台のSKYWAVEがありますが、すべて同じ車種。普通二輪の方もAT教習が加えられているようですし、どうやら大型の教習生だからと言って400cc超のスクーターでなければならないわけではないようですから、ひとまずは400ccだけの配備ということなのでしょう。
 せっかくの機会ですから、細部を見せていただきましょうか。
 とにかく巨大なボディ。サイズ表を見る限りでは例えばDR-Z400Sなんかよりもかなり小さいんですが、密度が違いますからねぇ…前後左右、どこから見てもすごい圧力を感じます。大型教習車のCB750が小さく見えますね(CB750は元々かなりコンパクトですが)。
 その大きさゆえ、フルフェアリングの効果は絶大なものでしょう。教習所のコースでそれを感じるぐらいのスピードが出せるわけもありませんが、高速走行時の防風効果は想像に難くありません。
 アメリカンぽい乗車姿勢ですが、このシートはなかなか秀逸です。背もたれというか腰に当たる部分のホールド感が良く、加速時やコーナリング時に体をしっかり支えてくれます。このバックレスト、10mmずつ5段階の調整が可能なそうで。正に4輪並ですね。
 ビッグスクーターはタンデムするためにあるようなものですから、もちろん相当快適であろうと思われるピリオンシート。一段高くなっているので前もよく見えそうです。ちなみに私、足を後ろから振り上げて跨ったので教官に笑われました…まあ幅もあるので多少は跨りにくいですが、オフロードバイクの高いシートに慣れた身にはなんてことないです。それに、教習車ってサイドスタンド上げてバイクを立ててから跨るじゃないですか。いくらスクーターだからって、その状態で前から足を通すのって難しいと思いません?
 巨大なシートの下は、もちろんフルフェイス2つ分のメットインスペース。その他にもハンドル回りなどに収納スペース多数あり。フロントトランク内にはDCソケットなどもあるそうです。
 スクーターらしいステッププレート。前にある金属のパイプは教習車特有のガードですが、一瞬ハイウェイ用のステップかと…んなわけないですが。ステップの後ろの方、シートに立ち上がる手前が左右ともえぐってあり、足つきが非常に楽になっています。
 タイヤは13インチという珍しいサイズ。種類はあまり無いと思いますが、グリップ性能云々と言うような走りは出来そうにありませんから問題ないでしょう。ブレーキは前後ともディスクブレーキが採用されています。車重があるのでブレーキ性能が悪いと致命的ですからね。
 ただし…
 リアブレーキは左手で掛けます。フットではありません。どうやら今はこの仕様が一般的ならしいですね。昔はHONDAのSPACYなど、フットブレーキでステッププレート上にペダルがにょきっと生えていたものですが、今はそういうのは無いようです。
 左手ブレーキの操作系はもちろんストマジも同じですし、元来私はスクータークラスをメインに戦っていたミニバイクレーサーですから、この仕様でも違和感無く乗れる…と思いましたが、やっぱりイマイチ馴染めませんでした。SKYWAVEは左手ブレーキだけで前後のブレーキが同時に掛かる、4輪並の機構が採用されているらしいんですが、そんなことを味わう余裕もありませんでしたね。どうなんでしょう?オートバイ乗りとしてはリアブレーキは足にあるものと考えてしまいますが、スクーターのみでステップアップする場合、もしくはリターンライダーの年配の方などにはこの方が良いんでしょうか?
 さて、肝心の走行性能ですが、さすがに400ccともなれば巨大なスクーターでも加速は抜群。少しアクセルに反応するまでのラグが長いような気もしますが、実用的に問題のあるレベルではないでしょう。
 走りについてはあまり多くのコメントは書けません…当たり前です、なにせ数分しか乗らせてもらえなかったんで。しかもコースは初心者コースで外周と交差点を1回通るのみ。S字もクランクも無し、もちろん波状路や一本橋なんてやるわけもありません。波状路やらせてもらえれば、オフでどういう感じになるか少しは想像出来たんですけどね…しかし考えてみれば、このカウルで波状路や一本橋は見えなくて大変そうです。実際のAT限定の教習ではどういうふうになるんでしょうか?
 実際、これでオフロードなんてのはあまり考えたくもないシチュエーションですし、小回りの必要な町中をチマチマ走るのも得意ではなさそうです。ワインディングもそう楽しめるとは…やはり高速走行を快適に、特にタンデムツーリングに特化した乗り物と考えた方が良さそうですね。使い方としてはアメリカンに近いものになるんでしょうが、もっと、こう…オートバイに乗るという感覚より、2輪のオープンカーという感の方が強いのかもしれません。
 なぜかこの手のスクーターが今時の若者たちにもてはやされていて、半ヘルをかぶったいかにも~な男の子達が乗っているのをよく見かけます。ド派手な形状のカウルに付け替えたり、ローダウン化するなど、まるで四輪のハイエースみたいな類の改造が出来るので、そういう方向で人気が出ているのもなんとなくわかる気がしますが…やはりこういうスクーターは、ゆったりと高速クルージングを楽しむためのもの、リターンライダーも含めた大人のための乗り物だと思いますね。今はいろいろな年齢層に流行っていますが、結局はその方向だけに落ち着いていくような気がします。
 四輪の世界ではAT車の普及率が全体の9割近くになり、MT車に乗っているだけで珍しがられるようになりました。実用性の高い四輪だからこそ、快適さが求められた結果だと思います。今回乗ったSKYWAVE、確かにすごく快適な乗り物です。でも、こういうものがオートバイの世界で大多数を占めるということには、まずならないんじゃないかと思います。いくらAT限定の免許が出来、容易に取得出来るようになっても、大きく変わってゆくことはないでしょう。
写真・文 : 河村 敬

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