File57 ダムに沈む川原湯温泉
日本ロマンチック街道を通った際に見かけたある看板が訪問のきっかけとなりました。
「ダムに沈む川原湯温泉」の文字にひかれて再訪したこの地。
川原湯温泉は、共同浴場をもつ古くからの湯治場です。
国道からそれた道に沿うように鄙びた温泉街が並びます。決して華美なものはない、素朴な温泉街です。
車やバイクで来るには駐車場の数が不足しているのが少々不便ですから、ここは歩くことにしましょう。
松尾芭蕉も訪れたようですね。
シンボルとも言うべき「王湯」です。
共同浴場で、作りは新しい。ここには源泉があります。
中は内湯と露天風呂があります。内湯の評価が高いようです。
湯は硫黄のにおいのきついもの。源泉温度は高く、加水されています。
こちらは混浴露天風呂です。かなり大きいですが風情は今ひとつ、か。
以前は無料で24時間利用可能だったようですが、諸般の理由(マナー低下によるものと、住民数の減少による管理費用の切迫)から今は100円の利用料金と開湯時間の制限があります。
ここは歴史的には新しいようです。湯は王湯のものではなく、温泉神社下にある新源泉から引湯しています。
ちなみに聖天様とは・・・行ってみてください。
さて、ここ川原湯温泉は、ダムに沈む、となっています。
歩いてみたところ、国道よりかなり高台にありますが・・・
川原湯温泉から少しはなれて、「やんば館」なる施設があります。
これは、八ツ場ダムの資料館として作られたもので、現在進行形の工事を追っています。
八ツ場ダムは、計画から50年近くもの長い間住民とののあいだで折衝を続けてきたもの。年表は昭和22年から始まっています。
このダムは、関東広範囲の水道源となります。
今後のライフライン確保のためには必要なものということになります。
・・・今のところ、このダムがなくてもなんとか成り立っている様ですが・・・
なんとも大きなダムになるようです・・・川原湯はかなり高いところにあるはずですが、王湯の上まで水没するようですね。
このあたり非常に微妙なところですね。水が少ない時期は王湯にある源泉のあたりは露出するでしょうから。
ここにその模型があります。
周辺の地域は水没することになります。
川原湯温泉もその地域で、現行の温泉街はダム湖の中になってしまいます。
この地域をそっくり移住させるべく、代替え地の工事が行われているところです。
聖天様露天風呂の引いている新源泉は、水没線より高いところにあります。
川原湯が水没するため、集団移住先に新しい温泉街を作るために代替えの源泉を掘ったものです。
現在の川原湯の上に、山を開拓して温泉街を作っています。平成17年度末には造成工事が終わるとのことですからあと半年。それから温泉街を作り上げる作業、ということになるでしょうか。水没するのは2010年ということであと5年。それまでに移住は済む必要があります。
問題はいつ温泉場が切り替わるか、ということです。
とつぜんスパッと切り替えられるものでもないでしょうが、移住して再建していくことを決めた以上、いつまでも「ダムに沈む温泉」を売りにしていくわけにも行けないでしょう。
川原湯温泉は、新しくなります。
でも、今の鄙びた温泉街は、もうすぐ無くなってしまうのです。
温泉にとっては死活問題ですから、今こうして「ダムに沈む」ことを売りにしてでも客集めをしています。
そして新しく開発される温泉街への継続を願っている。そんなところでしょうか。
新しい川原湯温泉が誕生するとき、また訪れて今の川原湯との違いを確かめてみたいものです。
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