退散するとき
些か冬が長すぎたような気がする。
冬の始まりが遅くなって雪の降るのも遅かったが、1年に降る雪の量が決まっているかのように遅くまで雪が降った。3月の声を聞いてもまだ雪が積もる始末。雪国ならそれもあろうが、どちらかというと南国と言って良いこの地域で、だ。
しかしながら春は早足にやって来てはいる。雪の降ったあとにはすぐに暖かくなり木々も芽吹く。何でも今年の花粉は非常事態と言えるほどだそうな。
毎年冬の終わりに鼻風邪をひき、すわ花粉症かとおののきながらはや数年以上。ことしも無事のようだ。
春になったら冬眠させていたバイクを起こしてやるのがシーズンの幕開け。数ヶ月ぶりにカバーを外し、バッテリーを降ろす。バッテリー上がりの補充電は今更驚くこともないほどの年中行事で、明日のライディングのための大切な儀式だ。
よく晴れた土曜日、暖かくなった午後。バッテリーを載せて走りだそう。
いきなり林道へ行くのが林病患者の行動。先週降った雪はすでに無い。
都会からさほど離れていないこの地域でも森が残っており、里山とでも言うべきか。
もっとも、有名な林道があるわけではなく、何度も行っては帰りを繰り返さなければならない。本来大型車で来るところでは無いだろう。
Uターンのたびに降りて、エッチラオッチラ方向を変える。
これを行けと?
さすがに突っ込んでいくことはできない。先の見えない道は無理せず歩いて下見に入る。
・・・これは既に道では無いな・・・
軽量車両ならばなんとかなるのだろう。いくつものタイヤの跡があった。そのいくつかがスムーズに通れていないのも判る。
間違っても大型車両が通れるとは思えず、ここはあきらめて迂回する。
やっと走れる道に出た。これならば無理なく走れる。
前方から猛スピードで音もなく駆けてくるマウンテンバイクに肝を冷やすが、逆もまた然り。
ひとりのハイカーに出会った。
「ここ、そんなので走れるの?」
素朴な疑問に、答えが詰まる。
「そんなの」は何にかかる?バイクの大きさか、それともバイクそのものか。
走っていたのは東海自然歩道。
自然歩道と言っても、全てが歩行者専用ではない。一般の車道のなかにも指定されている区間がある。
この場所はかつての県道であるため、走行してはいけないのかどうか(この言い回しそのものが”走れない”ことを感じているのか)が判断付かなかった。
それからも少し走っては見たが、何となく引っかかったのと、冬眠明けのバイクに少し不調の兆しが見えたのでやめることにした。
技術的に走れない道ではなかったけれど、気持ち的に走れなくなったので退散の時期だったのだろう。
まだシーズンは始まったばかり。今走らなくてもまだまだ走れるさ。
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