第41話 そして別れ

 冬が長すぎるのも考えものだ。

 なぜか冬にバイクを買うことの多い俺にとって、冬は整備の時期でもある。車検のあるバイクに乗るようになった昨今ではバイクシーズンの前に車検を受けるのがいつものことなのだが。
 2年前の車検時、2ヶ月ほど遅らせたときにもいろいろと考えるところはあった。そして今年もまた・・・

 年末、いや9月からか。少しエンジンの調子がおかしかったように思う。11月にははっきりとおかしくなっており、車検前にエンジンを開けようかと考えてもいた。
 しかし、生産より8年を経過したことになる、それも外車の競技系車両である。パーツがそんなに簡単には手に入らず。何せ外装を発注してから最終入荷したのは8ヶ月も経っていたのだから・・・エンジンを開けるのに必要になるガスケット類にしても同様で、冬を過ぎるまで入手できなかった。

 いろいろと考えるところはあったものの、遅れながらに外装一式買ってしまったわけで、もう2年の延命を決意した。仕事が忙しくなってきた春、すでにエンジンを開ける時間が取れないことがわかった。
 それでなくとも新興住宅街のアパート暮らしには、エンジンを開ける環境が用意できないのでもあるが。

 ともあれ、車検前にひととおりの整備を済ませた。せっかく買った外装を取り替え、エンジンを念入りにフラッシングして音を聞く。アイドリングではとくに問題がない。アタリの良かったバッテリーは2度目の冬を難なく乗り切っており、始動はセル一発だ。
 厳しかった冬のせいか、あるいは昨年来おかしかったのはこのせいか、ラジエータホースに亀裂が入っており、冷却水がほとんど入っていなかった。いったいいつからだ?このまま走っていたのか??エンジンにダメージはないのか???

 現時点で普通にエンジンはかかるし回転もおかしくない様に思える。そのままにしてとりあえず車検を受けることにした。
 車検に持っていく前に少し林道を走ろう。今年の幕開けと行こうか。

 いつものようにエンジンは軽くかかった。いくらかアイドリング回転の落ちつきが悪いように思えるのでアイドルスクリューをかるくひねる。エアスクリューまで弄ることはしない。ほぼ問題ないかな、という感じ。
 いつものルートを走らせる。新しくなった外装で周囲から見た目には新車同様に見えるだろう・・・か。

 堤防道路へ出た。アクセルの開度が大きくなる。回転の谷があるエンジンなので、その上まで回転を上げる。
 ごくごく順調に走っていたそのとき。突然エンジンが大きな音を上げた。


 即座にアクセルを戻すが、回転が落ちていかない。
 そのままアクセルを開けていっても、加速していかない。


 これは異常事態だ。道ばたの広場に寄せて止めた。
 エンジンの回転が高いままで、アクセルのレスポンスがおかしい。
 キルスイッチでエンジンを止めてしばらく冷やしてみる。気温が低いのですぐに冷える。冷却水は減っていない。オイルも減っていない。

 ためしにエンジンを掛けてみる。普通にセルで始動したが、やはり回転が非常に高い。

 車検に行くのに工具は持っていた。タンクをおろし、キャブを開けてみた。



 これは・・・

 デロルトキャブのバルブはフラットタイプで、アルミにクロームメッキが施されたものだ。その一端が折れていた。
 このトラブルが起こったのは実は二度目である。一度目は購入して数ヶ月の時だった。

 今回はそのときとは症状が違った。一回目のときは2ヶ月ほど前からアクセルの付きが悪くなっていた。そして突然壊れたことは同じだが、かけらをエンジンに吸い込んでバルブに噛み込み、バルブシートに傷をつけたことでエンジンがかからなくなった。
 今回は、エンジンはかかる。それが希望の持てる点ではあった。

 いまから持ち込もうとしていたディーラーに電話を掛け、引き上げてもらうことにした。
 車を待つ間、色々なことを考えた。これから車検がある。修理を含めていくらかかる?

 それから1週間。見積が出た。
 キャブを外してみたがかけらが見つからないと言う。かけらは間違いなくシリンダーの中にある。運良く噛み込むことがなかった様だが、エンジンは開けなければならない。
 もともとエンジンは開けるつもりだった訳だが・・・


 これまでいろいろと考えていたことの結論が出た。


 結局のところ、このバイクを維持管理して乗り続けていくことを俺は放棄した。
 直接的にはこのトラブルが決定事項となったが、それ以外にもいろいろあるわけだ。

 スペック上は250cc並みの重量で、液体容量の少なさから装備重量ならば逆に軽いぐらいだが、些か大きく強い車体はその強烈なエンジン出力も合わせて体力的に使いこなせなくなってきた。新しい状態よりいくぶんマイルドになったとは言うものの、それはこうして修理が必要になってくる前兆でもある。
 流通量の多い日本製でも10年も部品は確保できないことが多く、それが海外・とりわけ欧州の小メーカーであることを考えれば今後はこれまで以上に部品の入手が難しくなる。修理のために乗れない期間が長くなると、車検や保険にかけた費用が合わなくなる。

 6年。考えてみれば乗っていた期間としては一番長いバイクになったのかも知れない。
 ウデの問題で、楽しく走らせてあげられたかというとはなはだ疑問が残るが、2万キロほどになろうとする走行距離は、レーサーベースの車両としては全うしたとしても良い頃だろう。

 どんなときも別れは突然やってくる・・・

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