SAND BEIGE

〜砂漠へ〜

 砂に憬れたことはあるか?

 ラリーレイドと呼ばれる競技がある。
 主に砂漠を舞台としたもので、たどり着くことが目的の初期から、今は日々のスプリントレースの様になってきている。

 代表格のdakarラリー。2005年の競技では、メオーニら2人のライダーが亡くなった。2004年のファラオではサンクが命を落としている。
 それが冒険による結果というより、競うことによるものと感じられるようになってきている。

 アフリカ・サハラ砂漠をスプリントレースの地に変えた各ワークスの力は凄まじい。
 モンゴル・ゴビ砂漠で日本のオーガナイザーが開催していたラリーレイドはその活動を終えたが、その砂漠を走るツアーもあった。
 オーストラリア・キャニングストックルートにしても、今はサポート体制を確保したツアーができ、以前の冒険ではなくなったと言えようか。


 既に砂漠は冒険の地では無くなった、ということか。


 日本という国は狭い国土を開発しつくしたような感覚を持たせることがあり、荒涼とした砂漠のような風景は見つけにくい。
 四季のある日本はまさにオアシスの様な地で、砂漠の様な厳しさは無い。

 そういや、東京砂漠なんて言葉はあったな。
 都会は砂漠のように渇いたなんたらかんたら、、、というやつだが。


 実際に、東京に砂漠はある。


 どこに?



 オアシスの典型のような熱海の温泉街から船に乗る。
 双胴のハイテク高速船は、1時間でそこまでを結ぶ。



 伊豆半島の沖合いに浮かぶ、伊豆大島がその地である。
 「伊豆」と呼ばれるが所在地は東京都。

 活火山・三原山をシンボルに持つ大島は、繰り返す噴火によって吐き出された溶岩がもたらす島である。
 大島へはフェリーは就航していない。東京・横浜からならば、夜行の客船にバイクを貨物として積むことは可能だ。その場合、往復に日数を要してしまう。



 島の交通としては道路は発達しているのでレンタカーなどは多く存在する。観光の足としてはバス以外にはこうしたレンタルが主流だ。
 バイクの場合もレンタルは存在するが、メーカー系など大手が参入している4輪レンタルにくらべて情報が少なく、現地へ出向いて初めてわかることも多々ある。

 大島・元町地区にあるバイクレンタルのなかで、この当馬レンタルバイクには、島で唯一と思われるオフロード自動二輪・セローを扱う。(もう一軒、DT50が存在するのを確認した)
 それほど広い島ではないのと、帰りの船まで5時間ほどという限られた時間から、4時間のレンタル。

 事情を言ってしまうと、このバイクを借りるのは初めてではない。今を去ること8年前、ここを初めて訪れたときに見つけたこのセロー。その後の情報もないままにここまでやってきた。
 8年の歳月は、その姿を無惨なモノに変えていた。昨年末に廃棄の検討をしたようだが、タイヤを新品のD605に履き替えて存命していた。

 電車に乗る前に靴を履き替えるのを忘れたのと、荷物になるのを嫌って自分のヘルメットを持たなかったことを後悔することになるが。



 御神火スカイラインを駆け上がる。エンジンは元気だが、クラッチが良くない。
 それ以上に、借り物の半キャップヘルメットが頭に乗っかっているだけで、スピードを出すと風で飛びそうだ。ゆっくりと景色を楽しむか。



 三原山は1990年代に噴火してからは小康状態を保っている。8年前は規制されていた立ち入りも解除されているようだ。
 目の前に見える黒い筋は溶岩の流れた跡だ。



 溶岩の跡に足を踏み入れることも可能だ。
 もう何年もこのままなのに、熱気を感じてしまうのは気のせい・・・



 島にも林道はあるが、標識につられて入ってみると行けどもダートが現れない。



 大島公園の奥、標識も何もないがダートがある。
 前半は土質であったが、徐々に砂になっていく。



 行き止まり地点は三原山から流れた砂に埋もれていた。
 ふかふかの砂がUターンすることも拒む。



 大島を一周する道路(その名も大島一周道路)から脇にはいるだけで、三原山に足を踏み入れることが出来る。
 馴れない借り物バイク、滑ったクラッチ。砂に流される前輪のD605F。思うように走れない。



 先人の走った跡はある。行けるのか行けないのか。
 下ったら上れない。そう判断して撤退する。



 そして、バス停の表示が「大砂漠」を示した。


 ここが、東京都内の砂漠。


 しばらく眺めていた。
 軽自動車が止まった。まずい、なにか警告されるか?
 「そのバイクなら大丈夫だよ。誰も怒らないし捕まえる人もいないんだから」

 ・・・行ってみましょう・・・



 今度はよく締まった砂で、少しは馴れたバイクの挙動も手伝って順調に歩みを進める。



 景色が開けた

 目の前には、広大な砂地が広がった。


 砂漠だ・・・


 それは小さなモノかも知れない。
 火山灰による黒々とした砂は、サハラの赤い砂ではないかも知れない。

 セローのエンジンを止めた。
 ただ砂の丘に吹く風の音だけが聞こえる。



 ここまでは入っても咎められない。
 ここからは、立ち入り禁止が示されている。

 「誰も・・・」

 先の言葉が思い出される。行ってみたい。
 しかしながら、街歩き用の靴、飾り同然のヘルメット。そして本調子でない借り物のバイク。


 行けない。


 そう判断せざるを得なかった。
 このバイクと装備では確実には走りきれない。

 かつてヤマハは、ここでテネレのテストを行ったそうだ。ここで開発したマシンでアフリカに挑み、勝利を収めた。


 砂漠の勇者・エレファントを持ち込めていたら行っただろうか?


 俺の腕では無理だよ。
 フサベルならたぶん行けるけど。行ったかも知れないけど。



 砂漠を出たら、もう他のダートへ入る気もなくなった。
 ふらふら観光モードで走り、景色など眺めていると、犬を連れたおじさんが海辺へのルートを教えてくれる。

 気候も暖かいが、人も温かい。



 遊泳場らしいが、どこで泳げと?シャワーがあるので間違いないだろうけど。
 岩場の岩も溶岩質で、改めてこの島が火山の島であることを感じる。



 バイクを時間通りに返却し、温泉で時間をつぶす。
 火山は砂漠だけではなく、こうしたオアシスももたらすのだ。

 東京の島、小笠原諸島では、三宅島が2000年の噴火以来全島避難となっていたが、数日前に帰島を開始した。まだ観光客としては島に入れない(5月頃から受け入れるようだ)
 火山活動とともに生きる島は、アフリカの砂漠よりも厳しいこともあるのだ。

 ほんの日帰りの数時間で感じることが出来る砂漠、君の憬れに近づけるか・・・

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