File52 ブレーキの強化

 動力性能の大きくなった昨今のバイクは、それに比例して強力なストッピングパワーも必要になりました。ロードバイクの世界ではどんどん強力なブレーキになっていきます。
 昔のバイクはその点、ブレーキの性能が劣ります。最近が最近だけに差を感じるというのもあるでしょうか。

 カジバエレファント、特に初期モデルはフロントにシングルのディスクブレーキという、車格に対して些か不足した制動力が問題点です。



 ノーマルのお復習いをしておきましょう。
 ディスクは意外に大きい298mm、ただしかなり段減りしています。キャリパはニッシンの2ポッド片押しです。

 これをディスク、キャリパ交換して高性能なものにしていこうと思います。



 ブレーキキャリパを作るメーカーも数あれど、やはりブレンボにとどめを刺すってもんでしょう。とくにイタリア製のバイクでもありますし。
 今回採用したのは、キャスティングの65mmピッチ、対向4ピストンのキャリパで、ドゥカティに採用された、1つのピストンに対し1枚のパッドが付く、4パッドとよばれるものです。通称ドカンボだったかな?片押しのニッシンと比較すると、かなり大きいボディです。
 キャスティングのモデルは値段も高くありません。これはインターネット通販で買ったもので18000円ほど。



 ディスクは、ブレーキングに一応対応品があるのですが、6ヶ月以上かかるそうで、さらにノーマルと同じサイズになります。
 そこで、特注品を作ることになりました。

 特注のディスク製作では、プラスミュー・ブレーキファクトリーが有名です。2輪、4輪のブレーキシステムを製作販売していますが、特注対応出来ます。
 実はここまでの内容、バイク用品店に依頼するつもりでしたが、もろもろの条件からすべて自分でやることになりました。メーカーとの打ち合わせ、発注も全てやりましたが、対個人でも対応してくれます。



 注文から2ヶ月、ワンオフのディスクローターが届きました。69000円になります。汎用品に比べれば高いですが、それだけの価値があります。
 ちょうど夏休みの時期でしたから余分に時間が掛かっています。通常なら1ヶ月程度とか。特に特殊な車両でもないかぎり、時間はわりとかからないものです。今回は車両が特殊、おそらく同じものをもう一回作ることはないでしょうから・・・



 仕様は、外径320mm、厚み5mm。取り付け寸法は標準のディスクをプラスミューに送って測定してもらいました。P.C.D143mmというのはなかなか他にありません。フローティング構造としています。オフセットを5mm付けたのでインナーローターに段差があります。
 インナーはアルミ、アウターはステンレスです。錆の問題解決はこれが一番無難でしょう。ブレンボの4パッドを使用する場合、アウターローターは専用品になるようです。

 さて、交換作業と行きましょう。



 センタースタンドのない大型バイクのホイールをはずすってのは厄介です。今回は自動車用のパンタグラフジャッキでエンジン下を持ち上げています。サイドスタンドと後輪で3角立ちさせるわけですが、バランスが崩れると大変なので、後ろをタイダウンで引っ張ってリヤを強く接地させています。危険ですからまねしないように。



 実は途中で寸法ミスに気付き、設計変更しました。キャリパの裏側がスポークに当たることが判明したからです。
 オフロード車の場合、このスポーク干渉が一番の問題で、対向ピストンキャリパの装着が難しい。キャストホイールにくらべてハブの幅が広いのでディスクのオフセットも大きくは取れません。モタード系は小径のホイールにしてスポークに角度を付け、ディスクを大きくすることでクリアランスを増やしています。
 エレファントは19インチでしたから比較的角度があり、320mmにしたことで余裕は出来ました。それでもオフセットを限界まで取った結果がこれです。フローティングピンとフロントフォークの間隔は1mm強しかありません。その状態でキャリパは、最小の箇所でスポークと2mm少々のクリアランスとなりました。成功です。

 このまま、取り付け関係の寸法を測定します。



 仮で寸法を測った数値から、正確な寸法取りを行うための治具を作ります。一発勝負は怖いので、正確な寸法を確認しようと言うわけです。3つの部品から構成する、調整式の部品とします。



 その3つの部品です。これらの作図はMicroCADAMで行いました。メタファイルが出力できるのでこういう画像にしやすいってのが・・・



 端材で作りましたから若干大きさは違いますが、厚みと穴ピッチはもちろん守っています。長穴で取り付けている各部品は、調整の自由度がかなり大きく取ってあります。固定力は弱いので恒久使用には向きませんが。



 車体に合わせます。ディスクのちょうど良い位置になるようにボルトを締めます。長穴が足りませんでしたが、寸法取りだけですから1本でもしっかりしめておけば大丈夫。キャリパ取り付け穴は10.0mmにしたらやはり合いませんでした。車体側の8.0mmはうまくピッチ合ったのですが。製作する際は0.2mm大きくします。



 キャリパのセンターも問題ないようです。アウターロータの面取り部分がパッドの外に来るように位置決めしました。



 寸法取りしたデータから、一体型の形状を起こします。
 こんな感じでしょうか。ナナメに65mmのキャリパ取り付けピッチ、ケガキ盤を使うのでX−Y寸法で書いてあります。



 これが出来上がりです。材質はA2017ジュラルミンの端材です。20mmのラフィングエンドミル使用、汎用の縦フライスにて加工しました。加工時間はいろいろ考えながらなので1時間半ほどです。
 設計時点では軽量化のヌスミ加工も考えていたのですが、現物を手にすると少々不安になったのでそのままです。アルミですから重量の差はあまり出ない計算でしたし。またザグリで設計していましたが、六角ボルトを使用することにしたのでザグリはなくなりました。



 使用したエンドミルがあまり良い状態ではありませんでした。さらにドライ切削したのでツールマークが残ってしまいました。回転上げたり送りを遅くしてみたりいろいろやってみましたが、そのまえにエンドミルを研削すれば良かったか・・・
 一カ所、刃に焼き付いた切粉で深く食い込ませてしまった傷が気になりますが、今回の部品はプロトタイプということで、再加工はせずにこのまま仕上げます。

 #180のペーパサンダーで粗取りしたあと、手作業でオイルストーン、水ペーパ#600、#1000、#1800と仕上げました。そしてクリア塗装して今回は完成です。
 最終仕様はA7075超々ジュラルミンを使い、カラーアルマイト仕上げをする予定です。強度が鉄並みになるのでかなり薄くすることが出来ますし、耐食性も良くなりますから。まあしばらく先になるでしょうか・・・



 取り付けました。キャリパの取り付けねじはM10ですが、自動車用のねじは一般のピッチ1.5mmではなく1.25mmで、単品では入手しにくいものです。今回はステンレスの六角ボルトを使用しましたから、一般市販ルートでは手に入りにくく、会社の購買を通して買いました。もちろん個人宛に伝票を発行してもらい、金を払っています。

 まあ社内在庫サイズなんかだったらもらってくることはありますが(笑)



 今回はマスターシリンダーも交換します。
 マスターもブレンボにしたいところですが、今回選択したのはニッシン製でディトナ扱いのものです。レバーの形状から、ホンダ車に多く用いられているものと思って良いですね。ミラーホルダーも付いていますから純正と変わらないフィッティングが可能です。
 ブレーキホースは元々ステンレスメッシュになっていたのでそのまま使いますが、継ぎ手はねじピッチが違う場合がありますから用意しましょう。
 ニッシンはM10x1.25mm、ブレンボはM10x1.0mmですので流用が効きません。またワッシャは必ず新しいものに交換しましょう。



 ではエア抜きです。

 ・・・が・・・

 2時間やっても全然ピストンが動いてくれません。ホースをはずしてみたら、ほとんど霧吹き程度にしか液がでません。そこでポンプを使ってブリーダから逆に注液してみたり、負圧をかけてみたりしましたがどうもうまくいかない。
 結果的にマスターシリンダーのリザーバタンクが別体になっており、その連結チューブにエアが溜まっていたために液がわずかにしか流れなかったのでした。マスターを上向けて、ポートからポンプで液を流してみたりしていたらチューブのエアが抜けました。このあとは通常通りのやりかた(レバーを何回か握って、ブリーダをゆるめる)を繰り返せばOKです。

 4ピストンのキャリパに対してマスターが1/2インチの比較的小径のものを使用しましたから、液の送りポンピングには回数が必要です。10回握るとだいたい送られるという感じでした。
 数回のエア抜きを繰り返し、手応えがしっかりしたのでこれで完了です。



 日本製のマスターシリンダーですから、ブレーキにはスイッチが付いています。ブレンボのマスターなどにした場合はスイッチが付かないことが多く、その場合はプレッシャースイッチを使うことになります。
 配線は従来のものを繋ぎますが、ノーマルが半田付けだったので切ってしまいましたから、ついでに差し込みに改造します。マスターのマイクロスイッチは端子が細いので、ギボシをつぶしてちょうど良いサイズのものを作りました。これもワンオフです。



 さて、さっそく試走です。
 まずは舗装道路をしばらく走ってみました。ディスクもパッドも新品ですから、もちろんアタリがつくまでは無理は出来ません。
 が、この組み合わせはとっても強力でした。少々強力すぎるきらいがありますか。シングルディスクですからどうしても片側のフォークに力が掛かるわけで、フルブレーキングするとやや右にハンドルが取られます。アップフェンダーにした際にフェンダースタビライザーも取ってしまいましたからそれも影響しているでしょうか。

 このディスクは良くできていました。カウルの隙間からブレーキが見えるので走りながら見ていたのですが、まったく振れがありません。走っていても回っていないかのように見えるほどです。また4枚のパッドが単独で動くというキャリパの特性も手伝って、片当たりや引きずりのないとても良い状態にできあがりました。
 どれほど変わったかというのは定量化できませんが、100kmほど走ってきたあとにリヤのディスクの錆が完全には取れていなかったことが変わったことです。これまでこの車両、リヤブレーキで止まっていた様なものですから・・・それがきちんとフロントで止まれるようになったのでした。

 となると、この良く効くブレーキがダートではどうなんだろう、ということ。
 そこで走ってみました。路面状態は踏み固められた小砂利からルーズな小石という条件で走りましたが、効きすぎるという感じはなく、ダートでも問題は無さそうです。ルーズな路面では少々ロック気味かな?と感じましたが、もともとこの車体では小石ってのは無理が利きませんから速度が速すぎることはないでしょう。これもOKですね。


 ブレーキは重要保安部品です。

 交換は自己責任で御願いします。

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