佐渡ヶ島への小さな旅路




早朝、国道18号を北上する。

信州の冬はまだ長く、雪融けが始まった矢先。

麓の町も、山々も、まだ深く雪を覆っているが、

今日の気温だけは、すでに春の様相。

国道沿線には、フキノトウの花が咲いている。

長野県から新潟県に入り、山間部を下ると、

目前には日本海が見えてくる。

ぼやけた海の向こうに、かすかに見える影。

それが今回の目的地、佐渡島である。


上越市の直江津港は佐渡島を経由し、

新潟へと向かう国道350号線の終点側。

佐渡汽船のフェリー航路も、立派な国道である。

発券所で手続きを済ませて乗船。

人も疎ら、というより皆無に等しい。

それでもフェリーは時刻通りに出港する。

昼過ぎに直江津港を離れて、2時間弱の船旅。

昼の暖かさに誘われて、居眠りしながら過ごす。

やがて船内に佐渡おけさの音が響き、

フェリーは小木港に到着した。


小木港から国道沿いに相川へと向かう。

国道と言っても交通量もそう多くない。

狭い山道、峠を幾つも越えていくシチュエーション。

小木からおよそ40km離れた相川までの道程は、

左手に海を眺めながら進んでいく。

敢えて選択したKSR110の車体でも

充分快適なツーリングルートになっていた。

やがて日は傾き、夕暮れが近づいてくる。

今日の宿は春日崎の断崖に有る。

到着直前に絶好な日没の瞬間を迎える事になった。


佐渡の2日目。朝はどんよりとした曇り空。

雨の気配はなさそうだが、何か不安を感じる。

午前9時前に相川を出発。

国道からは外れて、内陸の県道を走る。

島内で最高峰にあたる金北山に向かう

大佐渡スカイラインは、この季節はまだ通行できない。

閉鎖されたゲートの奥に、雪を被った山々が見える。

佐渡はまだ春に至る気候には無いようだ。

ゲートの後方には旧佐渡金山や、鉱山の跡地、

大きく削れた手掘り時代の山の姿が見える。


佐渡ヶ島は島の大きさとしては最大級だが、

その大半は入り江の合間などに集落が点在している。

今では道路整備も進んでいるおかげで

交通上の支障は少なくなりつつあるけれども、

島内には細い切り通しの道が幾つも存在する。

その中でも独特なのが宿根木の集落。

かつては千石船と呼ばれる大型木造船の里で、

解体後の船板などで構成された船形家屋が存在する。

集落全体が今は保存地区となっているが、

その姿は当時の様子を垣間見るような思いがした。


小木の周辺を沿岸に沿って進んでいく。

岬の先端や断崖の隙間に数多くの灯台が見える。

主なもので8ヶ所ある灯台のうち

最も高さがあるのが沢崎にある沢崎鼻灯台。

隣接する展望台から周辺を見渡すと、

この島の広さを実感する。

お昼に差し掛かる頃から、風が強く吹きつける。

寒さが厳しくなったので早めに切り上げて、宿へと向かう。

2日目は佐和田温泉郷にある民宿。

特徴的な黒色の温泉に浸り、明日に期待する。


佐渡の最終日。午前6時は起きて8時前には出発。

小木港からのフェリー、この季節は日に2本しかない。

いちど逃すと、帰りにも大きく影響するので、

早め早めに出発していくわけである。

ちょうど私が、佐渡に来た日と同じように

気分の良い青空が広がっている。

佐和田海水浴場から真野湾を望むと、

向かいの羽茂や小木の山並がはっきりと見える。

昨日見た沢崎鼻灯台の姿もかすかに浮かんでいる。



真野の鉄砲鼻と呼ばれる海岸沿い一帯に

スイセンの花が咲き乱れている。

崖にある隙間至るところに、群生を形成している。

朝の陽射しを受けて、最大限に咲こうとする、花。

2月から4月までの期間が最盛期で、

佐渡ヶ島の冬と春との境界線になっている。

この時期を過ぎると、福寿草やカタクリ、

桜と言った春の花盛りを迎え、

本格的なの活動のシーズンに入っていく。


小木港には出発時間の1時間前に到着した。

予定より早く着いたものの、

かといって他に出掛けられるほどの時間ではない。

何も考えることなく港を眺めていると、

観光バスの観光客が来港し、

ターミナルに隣接する「たらい船」に乗り始めた。

小木の観光名物でもあるたらい船。

本来は沿岸の漁の為に使用する道具である。

青い空に輝く水面、ゆっくりと漕ぎ進むその姿。

のどかな時間が過ぎていった。


やがて私は小木港を離れて、直江津へ。

そして新潟から長野を越えて群馬まで。

帰宅した群馬の都市部では桜が迎えていた。

ちょうど佐渡では梅の花が咲き始めるだろう。

2泊3日の旅路では、まだ物足りなさを感じる。

広大な島を隅々まで堪能するには、

もう少しの日程が必要かもしれない。

近くて遠い島巡りの旅。

今は季節の狭間に有る、

島のほんの一部を覗いたに過ぎない。

文・写真 : 山本賢史

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