前日から冷え込みの厳しい朝。

午前5時を回った八王子市の郊外。

部屋から外を見下ろすと、目の前には中央線。

滅多に都内など行く機会の無い私でさえ、

そんな光景を見ていると、

自然と大都市の流れに流されているような気がする。

それ故に、この中から抜け出したい気分になる。

稀に来た都会で曇った前日の心はこの朝に置き去りにして、

今日は春の有る場所に行く。

爽快な天気と心を取り戻しに旅立つのだ。


こうして都心を離れて、国道を南下していく。

そして向かうは伊豆半島。

数年前までは、よく伊豆の林道を走りに言ったものだったが、

相次ぐ閉鎖や蔓延の渋滞路線に嫌気もさして、

次第に遠ざかっていったツーリングフィールド。

でも、かつて走った頃よりは、排気量的なゆとりもある。

久々に長い海岸沿いを走ることも、

遥かに違う視点に成るだろうし。

今行く事に、躊躇する理由も理屈は無い。

様々な思いを巡るうちに、やがて私は海に出た。


今回は、現地集合・解散のツーリングに参加した。

集合した場所は、JRの伊東駅だった。

伊豆は何度か来ているけれど、駅に寄った記憶は無い。

現地に着いて思ったのは

『こんな場所に駅なんて、有ったんだぁ。』

ある意味無知だったかもしれないけれど、

それ程目新しいように思えた。

駅周辺は天気に誘われた影響か、人手は随分多い。

青い空に古めかしい駅舎が映えていた。


挨拶もそこそこに、集まった一同は出発。

伊東に来た頃は小雨も降る天気だったが、

集まった頃には青空が広がっていた。

気温も朝の冷え込みを疑問に思うほどに暖かい。

選択肢の狭い道路事情は相変わらずだが、

そこで出てくる不機嫌さは、

久々のマスツーリングの中の会話で消えていく。


国道沿いからは海が絶えず望め、

所々には、梅の花が咲いている。

山はまだ芽吹く頃ではないけれど、

着実に緑一色の世界に変わりつつあるように見える。

そんな中を走りぬけてたどり着いたのは河津町。

その河川敷周辺には、ひとあし早く桜が咲いていた。

沿岸沿い園内には過去の模様が掲示されていた。

近隣では最も早くに桜が咲くことで知られるが、

実際にそれを見たことが今まで無かった。

今、桜を目の前にして不思議な感覚を覚えた。


土手沿いから河川に降りて昼食に。

先の伊東駅で買った駅弁を手に取り、

ちょっと早い桜の宴会である。

時折、周辺に吹く吹く風の冷たさが、

まだ冬の終わりに居る事を実感するが、

それでも一帯に咲く桜の木々を見ると、

春先の穏かな雰囲気に包まれる気がする。

各自が選んで買った駅弁も、

そんな光景の中にしっかりと溶け込んで、

みんなを和やかにする役目を果たしているのかもしれない。


時間の経過は早く、あっという間に夕暮れに差し掛かる。

夕暮れと共に一同は河津で解散となり、

それぞれの住む町へと帰っていった。

私も一時滞在の都心を離れ、自宅に戻った。

私の住む町は、ようやく梅が咲き始めた矢先。

桜の季節にはまだそれなりの時間を要するようだが、

そう遠い話でもないはず。

寒い冬を乗り越えるから、春の暖かさが判る。

焦らなくても、確実に春は訪れる。

でも、早くに春の姿を望むことが出来たことは、嬉しかった。

文・写真 : 山本賢史

目次




100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!