12月になった。師走になった。

それだけで何か、心に忙しさを感じるが、

同時に本格的に冬の到来にもなった。

心に何かがざわめいた。

忙しさではない。楽しさと言うのが正しい。

それが12月の旅。

私は吐く息白い早朝に、出発した。


日が昇る方向に進んでいった。

やがて昼間が訪れて、

太陽は頭上を通り過ぎ、

そして背後から夕陽が押してくる。

私は、あぶくま高原道路を東に進んでいた。

ここは福島、「みちのく」の出入口。

そして冬への入口にもなる場所。


平野から山へ、山から海へ。次々と越えていって

たどり着いたのは東北でも屈指の巨大都市、いわき。

早くから市町村合併した街。

海があり、山があり、田園風景がある。

高速道路も有れば、複数の林道だってある。

そして、小名浜と言う漁港の街で、温泉の街。

旅する人にとって、様々な要素が詰まった街。

日が暮れたいわき湯元温泉郷に到着。

駅にほど近い公衆浴場「さはこの湯」で

縮こまった体を暖める。


温泉郷内の格安の宿に泊まり、翌朝を迎える。

翌朝と言っても午前5時である。

季節は冬。夜明けにはなっていない時間。

暖機するバイクの排気も、まだ白いまま。

湯本駅舎にようやく明かりが灯り始めた。

これから街にも朝がやってくるだろう。

でも、私はここでは待たない。

向かう場所はより朝が判るところ。

海岸沿いへ向けて静かな街を飛び出していった。


箱庭のように狭い路地をたどって

太平洋に向かって走る。

まだ暗い街の中に、明るい光が駆けぬける。

小さな丘を越えると、

目の前に明るい景色が映る。

夜明け前の海岸と

海を照らす塩屋崎灯台が今の場所を知らせる。


灯台から手前から、バイクを降りて歩く。

夏は泳ぎで、秋はサーファーで賑わう海水浴場も

今はひとりの旅人しか居ない。

灯台の光が消える午前6時30分、

今日の夜明けを迎える。

新しい陽射しをからだいっぱいに受ける。

今日の旅に欠かせない、新鮮な気持ちをしっかりと。


夜明けと共に小名浜港には漁船が帰ってくる。

市場では賑やかな声が響き渡っている。

少し市場を離れて漁港を見渡す。

穏かな海と、快晴の空が気持ち良い。

市場食堂で朝食を済ませて、

今度は海から山へと向かう。

眩しい朝日と、頭上を飛ぶカモメに別れを告げていく。


いわき市の外れ、茨城県境に近い勿来から

国道289号で白河へと向かう。

ぐんぐんと高度を上げて、海の景色が去っていく。

数キロ行かないうちに、山の奥に入っていた。

木々には薄く霜が降りている。

同じ街の中に居るような気分は到底ない。

標高の低い山々を幾つも越えていく。

そして景色が樹林帯から牧草地帯に変わっていく。

何も違和感を覚えることなく

私の足は高原のほうに向かっていた。


小さな看板を頼りに鹿角平高原にたどり着く。

緩やかな傾斜の丘、敷き詰められた牧草、

草をむさぼる僅かばかりの牛、

冬支度をすでに終えた観光牧場の管理棟。

時々流れる凛とした風の音以外、

周囲からは何の音も聞こえない。

でも今は、それがとても心地よい。


国道を道なりに進み、途中で南湖公園に立ち寄る。

今から4年前、初めて訪れた場所。

初めてビッグオフに乗り、夜通し走ってたどり着いた場所。

真夜中に映る水面に目が止まり、

それが気になって朝まで見ていた場所。

昼間の今は水抜きをして、湖底の見える場所。

思いのほか深かったわけでは無いようだ。

暫く様子を眺めた後、私は帰路につくことにした。

遠くに見える磐梯山らしき山は、雲に隠れて

その姿はすでに冬の様相に見えた。


東北では寒かったが、こちらでは暖かく感じる。

それが地域の差と言うものだろうか。

夕陽がまた訪れて、今日の終わりを受け入れる。

みちのくは既に冬。関東はこれから冬。

誰にとっても寒く厳しい季節を迎えるけれども、

誰もがその入口にしっかりと立ち、

冬へと踏みこんでいくことに迷ってはいけない。

文・写真 : 山本賢史

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