ワレハウミノコ

 何気なくスイッチを入れたテレビでは、あの「鳥人間コンテスト」が流れていた。
 折しも優勝チームの番だったようで、おおよそ想像すらできないほどの記録が出ていた。それも琵琶湖大橋をくぐることが許されず、余力を残して強制終了というのだから恐れ入る。

 そう、鳥人間コンテストが開催されるのは琵琶湖。

 翌日、日曜日の空は真っ青に晴れ上がった。なにか必然に駆られたように足は琵琶湖へ向かっていた

 われはうみのこ〜

と歌われる歌が少なくとも2つある。そのひとつが「琵琶湖周航の歌」で、この場合「うみ」は「海」ではなく「湖」である。
 その大きさたるや滋賀県の面積の大部分をしめるほどの大湖で、ほとんど海に等しいほどに見える。



 しかし水辺に降りてみれば淡水ならではの黒々とした透明度が海とは異なることを表している。
 波のない湖は水上交通には適しており、昔は近畿と北陸を結ぶ重要なルートであった。今では湖上を渡る実用的な交通はなくなってしまい、「流浪(さすらい)の旅にしあればしみじみと」と歌われた旅情は味わえなくなった。

 翻って現代の交通である自動車やバイクによる個人主導の旅が中心になって、時間も速くなり琵琶湖を通過していくだけの日々が続いている。
 東海から琵琶湖の畔を経由して行く先は、北陸だったり若狭だったり。なかでも若狭湾周辺には我々オフローダーにとって嬉しい長い林道が存在するものでもある。だからこそ、おおよそ湖海遊行(そんな言葉あるのか)に似つかわしくないオフロードバイクでこうして走っている。



 滋賀県には海はなく、海は福井県になる。西に向かって美浜の原発をすぎれば右手には若狭湾の濃い青色が見える。
 海を見おろす高台から崖に身を出してみれば、吹き抜ける風はすでに秋の気配を感じさせる9月の初旬。

 冬の荒波のイメージが刷り込まれているが、湾になっている若狭の海は比較的穏やかで、好転に恵まれた今日、白波すら立たない。

 もうひとつの「われはうみのこ」はそのままのタイトルで、こちらは紛れもなく「海」である。どこの海かは、知らない。
 海を題材にした歌は多い。題材になる何かがある。そしてその何かに牽かれて海に行く。



 海を少し離れて林道へ入ってみよう。
 若狭幹線林道は20kmあまりの距離を持つフラットな林道で、その多くの目的は観光と思われる。業務用の匂いがしないので、路面も砂利が基本だ。個人的にはあまり好きな条件ではない。
 観光目的といっても、やはり題材は風景であり、ここでは若狭湾であり、三方五湖である。



 その風景を売りにする林道は青空の下がとにかくよく似合う。
 途中の東屋で休憩などしていると、オフロードバイクが通り過ぎていく。身も心も軽快な秋晴れの今日、バイクも軽快に走る。



 三方五湖は5つの湖の俗称だ。塩水湖、汽水湖、淡水湖とひととおりそろっている。
 そうしたそれぞれの水質からか、色が違って見えるものだ。林道から見える湖は緑色で、反対側に見える海の青さとはまた異なった趣を見せる。



 林道を走って腹が減ったらやはり海の幸と行きたいところ。
 若狭幹線林道の西の起点からほんの少し走れば小浜の港にたどり着く。港には海産物を食べさせる店もある。こういうシチュエーションのもとにおいては、普段の林道行とは違った食を楽しむのも良い。



 再び長い林道を楽しむことにしようか。
 観光林道だから車も多く思い切って走ることはできないが、海と湖(うみ)を目で楽しみながらのんびり走るのも良いものだ。

 今、ワレハウミノコ・・・

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