〜レンタカーで行く遠征〜
日本の祝日は3週目に集中している。ところが、私の所属する会社は、3週目が月イチの土曜出勤日である。そのため世間の3連休はたいてい1日しか休みのない外れの週であったわけだ。
それがなぜか今年に限って、7月に3連休が設定されていた。期待していなかったために直前まで気付かなかった。
普段の年ならば梅雨も明けているころなのだが、今年の梅雨前線はしぶとく居座っており、バイクで出かけるにはどうにも心許ない。しかしせっかくの3連休、仕事は回避できたので休みは確定した。出かけない手はない。
と、なれば。
ここはひとつ、トランポにバイクを積んで普段は行けない遠い地域の林道などへ出かけてみるというのはどうだろう。
小回りの利く乗用車、それも極力ハイパワーなものを好んで所有している。ワンボックスカーを所有するなど自分の生活の中にはおおよそ考えにくいことだ。必要が有れば借りればいい・・・
金曜日の夜、会社の帰りに近所のレンタカー屋でハイエースを借りた。
翌朝。3連休の始まりは今にも降り出しそうな曇り空の下。
バイクならスイスイ、と行けそうな大阪の街も大柄なワンボックスではひらりひらりと車線を移るわけにも行かず、ゆっくりと渋滞の列に並ぶ。
オートマチックで助かった。しかし、ニッサン系の些か性急なオートマチックに慣れた右足はどうしてもアクセルペダルでシフトアップ/ダウンを制御したくなる。トヨタのオートマチックは秀逸だが、こうした操作に対してはレスポンスしないので全ての操作が遅れてしまう。慣れればこれで問題のない機械ではあるのだが。
レンタカーの車種はバンのDXグレード。ラジオはAMのみ、CDオーディオやカーナビなど付いているはずもない。
やむなく助手席にはCDラジカセ、そしてポータブルナビを載せて。足下にはACインバータまで用意し、長旅の万全をはかる。
CDラジカセをバカにするものではない。下手なカーオーディオよりよっぽど繊細な音がする。下手なカーオーディオとは某S社のK’sマスターサウンドなる純正オーディオのことだが・・・
関西圏の渋滞を抜けた車は順調に山陽道を走り続けた。
ハイエースはバンとしては足の速い車で、高速道路の巡航速度もそれなりに速い。淡々と距離を稼いでいく。
それまで保っていた空から急に大粒の雨がこぼれた。
こんなときにバイクはどうしようもなくなる。突然の大雨に打たれてしまってからではカッパの着用も遅い。それ以上に高速道路上ではおいそれと停まるわけにはいかず、カッパを着ること自体が出来ないものだ。
こんなシチュエーションのもとでは車のありがたみがよくわかる。
フェリーを使ってショートカットすることを思いついた。
残念ながら運行間隔が一番広い時間帯だった・・・
また料金もバイクとは違ってかなり高いのもネックだ。ハイエースの標準ボディは5m以下の料金となるが、バイクの数倍というのは痛い。
そんなわけで陸を走り続けて関門海峡を越える
順調に思われていた行程だが、岡山あたりから眼下を横切る川の水量が非常に多いことは気になっていた。
そうした雨の影響が、大都市福岡に大きな爪痕を残していた。太宰府で災害のため九州自動車道が通行止めとなっていた。幸いこの区間には福岡都市高速があるので迂回したが、当然渋滞は激しく。
災害による通行止めには証明書が発行される。博多で降りる際に渡される乗り継ぎ証明書を料金支払い時に提出すれば、一定の金額が減額される。証明書には元の入り口情報などは無いのであくまで一定額の減額措置だ。
そんなこんなで日は暮れて、今日は目的地へたどり着くのみ・・・
朝起きてみれば、周りはしっとりと濡れていた。
長期予報では今日は晴れ、しかしどうもずれてしまった天気概況、そうは言ってもここは自宅から1000km離れた九州の南部。なにもなく帰ろうなどとは考えるはずもなく。
ハイエースに乗り込んで出発すると、ワイパーは間欠。すなわち雨の降りは強くない。この程度なら問題はない。
バイクをおろして車を放置するのに都合の良い地域の広場的な駐車場を見つけて準備。
カッパまでは要らないだろう。帰りも車まで戻れば良いだけなのだから。比較的身軽にまとめて。
南九州には多くの林道が現存する。どちらへ行っても林道。
雨では遠く抜ける道は避けたい。しかも車で来ているということは、そこまで戻ってくる必要があるということだ。
こういうとき、本来機動性の高いバイクでありながらその機動性を活かせないことがジレンマとなる。いろいろな条件のなかで最適な楽しみ方を探すこと。それがバイクとの上手な(?)つきあい方なのか。
雨をさけて車を使った。それがおおきな要因であるわけだから、それにあわせた遊び方をすればいい。長い林道はおあずけになったが、そればかりが林道ではない。
普通に考えれば雨の走行などバイクにとって楽しいはずはない。
しかし、今日の相棒は、ツアラーではなくエンデューロレーサー。開き直ってしまえば雨の林道も素晴らしいステージに換える。
雨は強くない・・・時折晴れ間さえ覗く・・・が、連日の梅雨で川の水位は上がっている。本来なら沈下橋を渡ってさきへ進める林道、しかし「沈下」したままになっている今それは不可能だ。
まだ林道は続くようだがここでゲート遮断。
鍵を壊された様で、新しい鍵に換えたため、カギ持ちの人々に変更を呼びかけている。
結局、カギを壊して困るのは、そこを営利的に通ることの許されている地元の人々だ。
続いて入った林道も、晴れていれば展望も開けようが、この天気では何もないダートの峠道。最後まで走ると大回りになるので途中でUターン。
徐々に降り続くようになってきた雨。林道も深い水たまりに覆われるようになってきた。まあフラットな林道とわかっているのでそう気にせず通り過ぎてしまうが、普通に走れるバイクを持ってきているので出来ることだ。
余り調子に乗っているとズボッ・・・なんてこともあるが・・・
ま、それにしても、ね。
路上を流れる川も増水し、滝になって崖下へ流れ落ちる。
すでにブーツの中には完全に水が滲入しているので水たまりに入るのは気にしない。車で来ているとこういうところ結構楽であるかな。
なんだかんだと言いながら、1日林道を堪能した。テレビのニュースではここからほど近い地域の大水害を報じていたようだ。幸い山は荒れることがなかったが、ひとたび山を下りれば高速道路は通行止めに、一般道も雨のため渋滞が続いていた。
バイクをハイエースに積み込み林道を後にする。
3連休とはいえ、往復に各1日かかる。3日目の高速道路はそれが連休のものとは思えないほど閑散としていた。
往復のルートは代えてみたくなるものだ。
帰りのルートは中国道を選んだ。
・・・ハイエースだと言うことを忘れていた・・・
中国道はほぼ全線に渡りアップダウンを繰り返す。こうしたルートもハイパワーな乗用車なら楽しい道のりなのだが、この車にはそうした余裕は無い。
制限速度をキープすることも困難になってきた。
バンのエンジンは3リッターのディーゼル。ワゴンならばガソリン車があったり、ターボディーゼルがあったりするのだが。
例の排ガス規制で今後ディーゼルエンジンは少なくなっていく。はずだ。
今の車両規定では、ディーゼルエンジン車は2000ccを越えていても、いわゆる小型車枠内であれば4,あるいは5(7)ナンバーが付く。ガソリン車は2000ccまでである。今の3000ccディーゼルを置き換える2000ccガソリンエンジンは登場するのかどうか。
長い旅路も終わった。帰り着いたとき、メーターは2000kmを越えていた。
3日間、いや実際2日半ほどで走った距離だ。バイクでこれだけ走れただろうか?
最後に燃料を補給してレンタカー屋へ。
3日間走った車を返した。
またいつかの機会にここでハイエースを借りることになるかも知れない。でもそのときには、今回の車とは違うものになるだろう。この車は実は三重ナンバーではなく尾張小牧ナンバーだった。つまりいろんな営業所で使い回しているわけだ。だから同じ車が来る確率は低い。
さて、つぎはどこへ行こうか?