長いトンネルの中を走る。

交通量も乏しい、午前6時の高速路。

抜けた先には白い世界と輝く朝日が待つ。

暦の上では春のはずであるが、

雪深い地域の春は、まだ遠い先の話。

ようやく転寝から起き上がりそうな東北の

今年最後の冬、今年最初の春を駆け巡る。


群馬から新潟、そして国道伝いに山形まで進む。

ここ最近は随分手馴れてきたし、

高速網も少しづつではあるが先が伸びている。

闇雲に伸びる道路に、若干の不安を感じるけれど。

沿岸の道が峠を越え、田園の道に変化する頃には

鶴岡市街地を過ぎ、風車を横目にしながら先を急ぐ。

1月や2月に比べれば、随分と積雪も減った。

しかし『例年よりも少ない』とも言う。

早朝は快晴だった天気が曇り始め、小雪が舞い始めた。

まだ春の足音が届く場所には居ないようだ。


国道7号線をひたすらに北上する。

田園風景が再び沿岸の風景に戻っていく。

冬の鳥海山は裾野の一部しか見えない。

秋田県境に近い

遊佐町の十六羅漢岩に立ち寄る。

夕暮れ迫る海岸沿いの天気は荒れ気味で

立っているだけでも飛ばされそうな気になる。

海岸の瀬戸際に無造作に並ぶ羅漢像。

厳しい環境の中で長い年月存在する像。

その姿に何か凄みを感じつつ眺める。


暫くすると厚い雲の隙間から少しづつ光が差し込める。

それはコマ送りの映像のように急速に展開し、

やがて眩しい夕陽の姿が現れる。

風はまだ強く、カモメも流れに背くように飛びつづける。

いや、むしろ今の状態を維持するのがやっとといった感じだ。

1日の終わり間際の光景を見納め、

象潟の宿舎に向かい、今日を終える。

旅はまだ始まったばかり。

この先の行方を、冬に居る自分を、

春の訪れを感じさせる光景に出会うことを想い、明日へ。

そして2日目の朝を迎える。

思うように天気は回復せず、小雪が降っている。

宿舎近くにある道の駅「象潟・眺海の湯」に寄る。

最上階にある温泉浴場からは、

本来ならば鳥海山が見える筈だが、今日も見えない。

敢えて鳥海ブルーラインまで進んだが、

そこに見えるのは雪で覆われた田園と

モノトーンの風景しかない。


秋田県に入り、国道107号に切り替え、

今度は東北を横断するように走る。

主要道では有るが、都市の一部を除けば

地方の田舎道とそう変わらない程快適な道。

かまくらで有名な横手市を横切り、

岩手県境、向かうは湯田町へ。

駅舎に温泉がある「ほっとゆだ」をはじめとする

湯田温泉郷をゆっくりと巡る。

小さな集落の一角にある浴場を

地図を片手に走りまわる。


周囲は全くと言って良いほど冬の中。

とてもではないが春の姿は見えない。

河川の周囲には何メートル言う単位で積もっている。

対岸の国道は圧雪となった道路が続く。

この時期にバイクで走る者など皆無。

心情としては優越感と悲壮感が

同居してしまい、文章では表現しにくい。

それでも小さなKSR110の車体で山を越え、

東北道沿線まで走り、水沢市で泊まる。


水沢市は古い町並みを市街地で多く見ることが出来る。

東北の小京都の1つとも言われる。

時代毎に変わる建造物は

微妙なポイントで調和されている。

明治時代の洋館と江戸時代の大屋敷が

互いに向き合う大手通の一角。

寒さも緩み始めたと言う3月中旬の朝。

2日間見ることが出来なかった朝日と共に照らされて

冬の終わりまであともう一息なんだと感じる。


新潟から山形へ、山形から秋田へ、

そして秋田から岩手へと巡り、再び山形に戻る。

山形道を経由して山寺こと立石寺に向かう。

細く長い参道は雪に埋もれ凍り付き、

ゆっくり歩いても滑って進みにくい。

他の観光客も所々で悲鳴を上げつつ昇り降りしている。

観光と言うよりは、軽い冬季登山と言った感じだ。

過去にここを訪れて、夏の賑わいを知っている自分に

今の静かな山寺はちょっと想像つかない情景。

この場所にあるという現実がよりそう思わさせている。


山寺を後にして、もうひとつの山へ行く。

その山は、蔵王山系。

3月でもここの代名詞的存在の樹氷は見ることが出来る。

同時に山形県内の著名なスキー場でもある。

蔵王エコーラインを上がっていく。

全線は走れないけれど、山頂付近までは走っていける。

朝の光に雪が反射して眩しいほど。

高度を上げていくと、

山頂付近のほうに樹氷らしき姿もちらほら見える。


バイクでも大雪に閉ざされた道は進めない。

終点から2輪2足をスキー板と2足に切り替えて

さらにスキー場のリフトで更に上へ。

終点の先には樹氷群が目に飛び込んでくる。

人や動物を思わせる、とても奇妙な光景。

ひとつひとつを見ているだけでも

とても興味を引かれて、じっくり見入ってしまう。


この後、数年振りにスキーまで楽しみ、

夕方には帰路につくのである。

春の足音は、たとえ雪に覆われていても

その下からゆっくりと踏み出している。

雪融け始めた里の田園には、小さい芽が出始めている。

辺り一面が若葉で満たされる頃には

人も自然も生き生きと伸び、育っていく。

長いようで短い自然のサイクルの中で

限られた時間を精一杯、ありのままに生きていく。

現代社会には、ここから何か学ぶモノ、有るんじゃないだろうか。

文・写真 : 山本賢史

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